。」

「あ、はい。何でしょうか、千歳先輩。」

「今月の31日って・・・・・・。」

「はい、大晦日ですね?」

「・・・・・・やっぱ、何でもなか。」

「先輩??」

「いや、気にせんでよかね。」

「はぁ・・・・・・。」



と言われたものの、好きな人が言うことは何でも気になるものでしょ?
ってわけで。部活中ではあるけれど、その合間に私は頼れるお姉さま・・・・・・いや、正確にはお兄さまか。・・・・・・うん、とにかく。頼れる存在である、小春先輩へと相談してみることにした。



「小春先輩っ!」

「あら、ちゃん。今日も恋の相談??」

「はい、その通りですっ!!」

「そんなら、いつも通り、アタシに任せて!」

「ありがとうございますっ!それで、実は先ほど――。」



私が事情を説明すると、小春先輩は妖艶な笑みを浮かべながら、私の話に耳を傾けてくださった。・・・・・・やっぱり、頼れるお姉さまでいいと思う。むしろ、小春先輩ご自身も否定されない気がする。
何はともあれ、小春先輩の意見もお伺いしたい。



「――って。でも、そんなの気になるに決まってますよね?!」

「そりゃ、そうね。普通でも、話が途中で終わってしもたら気になるモンやのに、それが好きな相手からやったら尚更聞きたくなってしもて当然よ!」

「ですよね!」

「でも、ちゃんにも多少の非はあるんちゃう?」

「えぇっ?!何でですか??!」

「たんじょーび。」

「たんじょーび??」



私は頭の中で、小春先輩が仰った言葉を反芻する・・・・・・。



「あっ!もしかして・・・・・・。千歳先輩の誕生日なんですか?!」

「あれ?知らんかったん??」

「はい、全く以て!」

「そうやったんか〜。そんなら、仕方ないわね。」

「でも、今知ったので、今から千歳先輩に・・・・・・!」

「ちょっと待った。」

「は、はい。」

「今は知らん振りしとき。」

「え?!どうして・・・・・・。」

「当日急に祝った方が、驚きも大きいやろ?」

「なるほど、一種のサプライズですね!」

「そういうことやね。うん、ちゃんは賢いわ。」

「へへ、ありがとうございます。」



天才の小春先輩にそう褒めていただいたところで、嫌み以外の何でもないと思う。けど、そう感じさせないのが、小春先輩の魅力的なところだとも思う。だから、私は小春先輩に笑顔を返した。
・・・・・・って、うっかり素直に聞き入れちゃったけど。



「あ、でも、先輩!大晦日って・・・・・・さすがに部活も休みですよね?」

「連絡先、知ってるやろ?午前中だけでも会えませんかー、ってメールしたらええんよ。」

「えぇぇぇーっ!!そ、それは、ちょっと・・・・・・。」

「できひんとは言わせへんよ?」

「う・・・・・・。」

「あとはちゃん次第なんやからね!」

「は、はい・・・・・・。わかりました。頑張ってみます!」

「そう、その意気よ!」



結局、乗せられてしまった気がする・・・・・・。いや、でも!好きな人の誕生日は祝いたいじゃない!!それに、いざとなれば、先輩は3年生なので今年はちゃんと祝おうと思いました、とでも言っておけばいいのよね!うん、大丈夫!女は度胸よ。

と言い聞かせ、ついに迎えてしまった12月30日。明日が千歳先輩のお誕生日だ。プレゼントは・・・・・・喜んでいただけるかはわからないけれど、一応、手作りケーキを考えてる。今日、千歳先輩に連絡してみて、大丈夫だったら今からケーキ作りだ。
・・・・・・という予定なんだけど。やっぱり、緊張するよねっ!!部活での連絡なら、何度かメールしたことあるけど・・・・・・。私信は初めてだし・・・・・・。
ケータイを開き、メール作成画面で、指が止まる。何て打てばいいのか、わからない。やっぱり諦めようかと思ったとき、脳裏に小春先輩の笑顔が浮かんだ。・・・・・・うん、諦めちゃったら、後が怖い気がする。
何度も文章を打ち直したり読み返したり、送信ボタンを押すのに躊躇ったりしつつ、最後は若干投げやりとも言えるような思い切りで、ええい!とメールを送った。

その返事は・・・・・・。
あぁ、メールってすぐ連絡できる手段ではあるけど。だけど、相手にもメールを読む時間、返信を打つ時間が必要なわけで・・・・・・。一瞬で返事がくるわけじゃない。いや、一瞬だったら、それはそれで緊張するか。心の準備ができないし。
だけど、つい、早く来ないかなーって考えてしまう。本当は全然時間なんて経ってないのに、もしかして今はお忙しかったんだろうか?!とか考えて、迷惑だったかなー・・・・・・なんて不安に陥る。最悪、ドン引きされてたらどうしよう!!

なんてソワソワしまくっていたら、返信が来た。・・・・・・わぁ、来たよ!!
ドキドキしながら、受信中の画面を見つめ・・・・・・。って、さすがに私も長時間ケータイを持ちっぱなしというわけにもいかないだろうから、こうやって受信中の画面を見れているところからして、そこまで時間は経ってなかったんだろう。それでも、ドキドキする。
・・・・・・これで、友達からのメールとかだったら、ちょっと怒りたくなる。無駄にドキドキしちゃったじゃない!って。いや、でも、さすがにそれは悪いか。
などと考えていたら、ようやくケータイが差出人名を表示してくれた。そして、それは紛れもなく、私が1番待ち望んでいた人からのメールであった。

な、中身は・・・・・・?!
落ち着いて!と言い聞かせながら、慌ててメールを開くと。そこには、問題ないから朝から近くの公園で集合して、辺りをブラブラしてみようか、というようなことが書かれていた。
わぁ・・・・・・、どうしよう!!自分からお誘いしたわけだけど、いざOKされるとまた緊張してきた・・・・・・!でも、嬉しいから、今日は頑張ってケーキ作らなきゃ!・・・・・・って、その前にちゃんと返事もしないと!!

妙に焦ったけれど、メールで御礼の言葉を伝え、ケーキ作りも何とか成功した。当然のことながら、ケーキのことは・・・・・・と言うか、私が先輩のお誕生日をお祝いすることは内緒だ。せっかくのサプライズだしね!・・・・・・って言っても、急に明日はお時間ありますか?なんて訊いたら、さすがに千歳先輩はある程度お察しになるとも思うけど。

とにかく。私は、しっかりと準備をして・・・・・・当日、待ち合わせ場所の公園へと向かった。
そして、その数分後に、千歳先輩がいらっしゃった。



「よう、。待ったとね?」

「いえ、大丈夫です。こちらこそ、急にお呼びしてしまって・・・・・・大丈夫でしたか?」

「もちろん、問題なかよ。ばってん、俺に何か用でもあっと?」

「と言うより、先輩こそ、何かあるんじゃないですか?この間、今月の31日のことを話そうとされてましたよね?」

「あ、あぁ・・・・・・。あんときのこったいね。あれは、実は・・・・・・俺の誕生日って話ばせんと・・・・・・。」



千歳先輩は頭を掻きながら、顔を逸らし、少し言いにくそうにされていた。私はその機に、こっそりとケーキを渡しやすいように持ち直し、先輩の前へと差し出した。



「というわけで。お誕生日おめでとうございます!」

「・・・・・・俺に?」

「はい。実はあのあと、小春先輩に今日が千歳先輩のお誕生日だってことをお聞きして。」



どうやら、小春先輩のサプライズ作戦は上手くいったみたいで、千歳先輩は驚いた顔をされている。そんな千歳先輩に、私がニッコリと笑顔でケーキを渡すと、先輩もようやく笑顔に戻られ、それを受け取ってくださった。



「たいが嬉しかよ!ありがとう、。」

「いえいえ。先輩のお口に合うか、わかりませんが・・・・・・。」

「くちに?」

「はい。一応頑張って作りましたし、味見もしましたが、千歳先輩のお口に合うかどうか・・・・・・。」

「・・・・・・開けてもよか??」

「構いませんが・・・・・・大したものじゃないですよ?」

「そんなこつはなかろうよ。テニス部マネージャーのが作ったモンやけん、期待したくもなるばい。」

「うう・・・・・・。ハードルを上げないでください・・・・・・。」

「ハハ。ま、さしおり、あそこの椅子にでも座らんね?」

「は、はい。」



若干焦る私を、千歳先輩は楽しそうに椅子の方へと促してくださった。
喜んでいただけたのは、ありがたいけど。私をからかうようなことは、ご遠慮願いたい。・・・・・・と思いつつ、でも、やっぱり喜んでいただけて嬉しい、って気持ちの方が勝っちゃうのは当然のことだよね。



「じゃあ、開けてもよかね?」

「はい、どうぞ。」



2人で並んで椅子に座っている・・・・・・この状況、結構照れる。いや、かなり照れる。しかも、千歳先輩は丁寧に開けようとしてくださっている。どうせ、私が包んだものだから、そんなに綺麗じゃないし、そこまで気を遣っていただかなくても・・・・・・という思いから、より恥ずかしくなる。



「俺、今まで家族以外に祝われたこつがほとんどなかとよ。」

「そう・・・・・・ですね。学校はお休みですし、年末でもありますし・・・・・・何かと難しいですよね。」

「やけん、今日はが祝ってくれて、たいが感謝しとうよ。」

「いえいえ・・・・・・。」

「・・・・・・おっ、ケーキ!」

「はい、そうです。頑張ってみました。」

「帰ってから、ゆっくりいただくばい。」

「はい!そうしてください。」



千歳先輩は笑顔でそう言ってくださり、また丁寧に包みを閉じていらっしゃった。
・・・・・・感想を直接お聞きするのは恥ずかしいと思ってたけど、こうして少しでも嬉しそうなお顔をされているのが見れて良かった。自然とこっちも笑顔になる。



「ばってん、わざわざ大晦日に会ってくれた上に、手作りケーキ・・・・・・これは脈ありと捉えてもよかね?」



そのままのお優しい笑顔で千歳先輩はそう仰った。それに対し、思わず私は笑顔が消え、完全に固まってしまった。



「・・・・・・へ???」



後から思えば、かなり間抜けな声を出してしまって、恥ずかしいけれど・・・・・・。でも、仕方ないと思う!だって・・・・・・!!



「普通、どうでもいい相手に、そこまでせんたい?」

「そ、それは、その・・・・・・。」



何だろう、この恐怖にも似た感情・・・・・・。先輩の表情は相変わらずだというのに、さっきまで優しそうだと感じていたのが嘘みたい。
私は完全に顔を逸らし、千歳先輩の方を見れないでいた。



?」

「は、はい・・・・・・。」

「人と話すっときは、目ば合わせんといかんよ?」

「はい、すみません・・・・・・。」



先輩の方を見るのは難しかったけど、そんな先輩の言葉を無視することはもっと無理なことで・・・・・・。私は恐る恐る千歳先輩を見上げた。
普段、先輩の背の高さから、威圧感を覚えたことはなかった。だけど・・・・・・、今は違う。



「で・・・・・・、そう捉えてもよか?」



やっぱり先輩は笑顔なのに、どこか怖い。先輩は3年生なので今年はちゃんと祝おうと思いました、そんな準備していた答えを言う余裕すら無くなってしまった。
その答えも、もちろん嘘じゃない。でも、千歳先輩が仰っている理由の方が大きい。だから、もう素直に頷くしかないのか、と諦めかけたとき。私が頷くより前に、千歳先輩が私の頭にポンと手を置き、そのままよしよしと撫でてくださった。



「せ、先輩・・・・・・?」

「怖かったとね?」



そう言ってくださった千歳先輩は、いつも通りの先輩だった。私もほっと息をついて、素直に返すことにした。そして、そんな私に話を続けてくださった千歳先輩も、お優しいままだった。
・・・・・・ただ、その言葉の中にも、ある意味すごい内容が入っていた。



「え〜っと・・・・・・少し。」

「すまん、すまん。脈のあっとは俺の方たい。そいで昨日から、もしかすっと・・・・・・と期待はしとったばってん、実際に祝われっと、調子に乗って・・・・・・。」

「・・・・・・え??先輩、今、何て・・・・・・。」

「ん?調子に乗って??」

「いえいえ、もっと前ですよ!」

「ああ。・・・・・・俺がお前さんに脈あり、ってこつね?」

「は、はい・・・・・・。それって・・・・・・。」

「もちろん、ほんなこつね。俺はば好いとうよ?」



やっぱり先輩は優しい笑顔で、そう言ってくださったけど・・・・・・。そ、それはそれでダメなの!だ、だって、破壊力が・・・・・・!!!!
私はどんどん体中が熱くなっていくのを感じた。きっと顔も真っ赤だ。・・・・・・でも、何も言わないでいるわけにはいかない。そうでしょ?あとは、私次第、ってね。



「私・・・・・・も、千歳先輩のこと、好き、です・・・・・・!」

「そうか・・・・・・ありがとう。最高の誕生日になったばい。」



温かく、そして優しく微笑んで、千歳先輩はそう言ってくださった。
・・・・・・本当に頑張ってよかった。今日は私にとっても、最高の大晦日になった。できれば来年のこの日も・・・・・・。



「1年後も、こうして一緒に過ごしてくれんね?」



あれ、千歳先輩に心を読まれたのかな?先輩は、時間は読めても、たしか人の心までは読めないはずだけど・・・・・・。
何にせよ。私は照れながらも、元気よく答えを返した。もちろん、答えは・・・・・・。













 

モアプリで千歳さんをクリア後、40.5巻で誕生日が12月31日だと知り、その勢いで書いた作品です!・・・頑張った!(笑)
方言(熊本弁)は、変換ツールなどに頼らず、自力で書きました。なので、変な部分がたくさんあると思います(汗)。とりあえず、雰囲気だけでもわかっていただけたらなぁ〜、と・・・。すみません・・・;;

とにかく。今回は「大晦日が誕生日って大変だよな〜・・・」と思い、「あと、ドSな千歳さんが書きたい!」という欲望もあり(←)、無理してでも書いてみました。
やっぱり、他の作品以上に時間がかかったと思います。・・・しかし、実は春には完成しておりました!ただ、せっかく誕生日ネタなので、今まで封印(?)しておりました。冬は忙しくなるという気もしていましたし・・・(苦笑)。

('10/12/31)